「モバツイ」は、いわゆるスマートフォンではない従来の携帯電話(ガラケー)でTwitterが利用できるように、と作られたサービスです。モバツイがスタートした2007年4月はTwitterが最初に話題になり始めた頃で、まだガラケーでは利用することができませんでした。そんな中、モバツイを使えば「今思ったこと」をその場でタイムリーにツイートでき、Twitterの利用スタイルともマッチしているとあってファンをつかみ、その後しばらくしてTwitterが急激に普及したのと合わせて成長。今では150万人が利用するサービスに成長しました。
この書籍はモバツイを開発した「えふしん」(藤川真一)さんがモバツイの開発・運営の実体験を通して感じた、考えたこと書かれています。その範囲はモバツイに関することだけでなく、Twitterを例にしたプラットフォームサービスの構造や、ソーシャルサービス、スマートフォンの可能性、そしてそうした環境の中でのWebサービスの「大きくなり方」などが述べられています。第2章「ツイッターがメジャーになった理由の僕なりの分析」では2007年当時に「半年で飽きると思われていたツイッター」がなぜここまでメジャーになったのか、Twitter関連サービス開発者であり、いちユーザーであるえふしんさんの視点からの考察が語られていて興味深いです。えふしんさんはこの頃の「サードパーティがTwitterのちょっと足りない機能を補完していく」というTwitter社とサードパーティの関係を「ボケとツッコミの関係」と表現しています。対サードパーティだけでなく、個人ユーザーとの間でも、当初はなかった数々の機能(「@」「RT」やハッシュタグ)がユーザーの間で事前発生的に生まれ、取り入れられてきました。個人向けのコミュニケーションサービスではしばしば運営側が想定していなかった使われ方がユーザーの間で生まれることがあります。中には行き過ぎたローカルルールもありますが、運営側としてはこうした使われ方から改善のヒントを得られることも多くあります。現在のTwitterからは想像しにくいですが、こうした経緯を知ることで多くのメジャーサービスも例外ではないということが納得できます。
そして、後半はモバツイがユーザーとのコミュニケーションを経ながら大きくなっていく中で考えたことなどが語られています。中でも、第5章「一人で始めたサービスがここまで大きく育った理由」は本書に興味を持った人にはもっとも知りたいところかもしれません。サービスが大きくなれば、なにか仕様変更や機能追加をするたびに多かれ少なかれ反発は出るものですが、そうした際にもコンセプトをぶらすことなく「できる限り自分たちのメッセージを伝える努力」をすべきといいます。ユーザーと対話をしながら、サービスを適切に発展させていくためのポイントとして、本書では具体的に5つの「いつも頭に入れている仕様変更のときの心構え」が紹介されています。
最近はネットで新たなサービスが以前にも増して次々に生まれており、「スタートアップブーム」といわれます。会社を立ち上げるまでいかなくても、えふしんさんがモバツイを始めた時のように会社員の立場で個人プロジェクトとしてサービスを始めたいという人も僕の周りで増えています。本書は構造化されたマニュアル本というよりも、全体を通してテーマごとに時系列に実体験や事例をおりませながら解説していくスタイルをとっているので流れにそってサービスの発展段階ごとに考えるべきことが分かりやすく、読みやすく構成されています。これからWebサービスを作りたい人、業界について知りたい人にとって非常に参考になる書籍です。
個人的にはTwitter第1次ブームの時からずっとモバツイを続けていたことがすごいと思います。成功するには止めずに続けることだと何かで聞いた覚えがありますが、モバツイもそうした成功事例のひとつなのだと思います。もちろん、続ければすべてが成功する訳ではないのが悩ましいところなのですが…がんばります…。
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