「ゲーミフィケーション」という用語もよく聞かれるようになったが、まだまだ理解は様々だ。ゲーミフィケーションは顧客ロイヤルティーを高めるサービスデザイン手法のひとつであると以前にご説明したが、具体的に使われるツールとして有名なのは「称号」や「バッジ」だろう。これらはサービスのそもそもの目的や成果を可視化し、より達成感を与えるものだ。そのため、ユーザーがご褒美を得るのは達成した後になる。

 しかし、こうしたご褒美は先にあげたほうが効果的であるという研究結果がある。ハーバード大学のロナルド・フライヤー氏らによる教師に関する研究では、教師に報奨を事前に与え、担当するクラスの成績が上がらない場合は返還させるとした調査グループは、達成後に報奨を与えるとした調査グループよりもクラスの成績がより上がったという。

 行動経済学の分野でも、同程度の価値を得る満足と失う不満では失う不満のほうが強く感じられるとされている。教師を対象にした実験では、後から報奨を得られるかもしれない期待よりも、得た報奨を失うかもしれない恐怖のほうが大きな原動力になったということだ。

 ただ、効果が高いとストレスも多くなる。ゲームの分野では何かを失った場合もリカバリー手段が用意され、過度にユーザーを追い詰めない設計になっているものも多い。「アメとムチ」のバランスが重要だ。

 ところで、同じ価値でも先にあげたほうが効果的というこの研究、なにかに似ていると思ったら「朝三暮四」の故事だった。今も昔も本質は変わらないということかもしれない。もっとも、朝三暮四は猿が相手だったが…。

(本記事は「東京IT新聞」に寄稿させていただいた記事の元原稿です。許可を得てアーカイブとして本誌掲載の1週間後を目処に掲載しています。本誌は画像付きですが、こちらはテキストのみの掲載になります。)

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