マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった | |
矢羽野薫
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僕は日本における民間宇宙産業の振興を目指すNPO法人の運営に関わっている。NPO法人の名前は有人ロケット研究会(MRP)。2007年秋の設立から1年数ヶ月が経ったが、いつも悩むのが目的をいかに説明し、理解を得るかということだ。
本書の著者であるジョン・ウッド氏は元マイクロソフトのエグゼクティブ。そんな同氏がネパールにトレッキングに行った際に偶然訪れた学校で「本のない図書室」を見た体験から、「2020年までに1000万人の子供に学びの場を届ける」という目標を掲げたNPO「ルーム・トゥ・リード(Room to Read)」を立ち上げた。
副題に「僕はこうして社会起業家になった」とある本書は、その意味で自分にとってとても参考になった。NPO法人といえども目的を達するためには存続していくことが必要で、そのためにはきちんとキャッシュがまわせるようになっていなければならない。非営利の法人ということで気づきにくくなっているが、どのように社会に貢献していくかという方法が違うだけで、この点は営利企業と変わらないのだ。
そして大胆に、しかし堅実な発展を目指すためにはいくつかのポイントがある。もっとも大事なのは寄付者や会員、社会に対して成果を説明していくということだ。例えば、著者のジョン・ウッド氏は「1万ドルの寄付で図書館を1つ建設」といったように寄付と成果をわかりやすく結び付けている。実際に訪れることができ、成果を実感できるのも大きい。また、そうした成果の積み重ねをメールの署名欄などを使って積極的に公開している。こうした活動が寄付者の信頼感と満足感を高めているのだ。
また、大きくてワクワクする、それでいて実現可能な目標を設定することで「支援しやすい目標」とすることが大事だとも語る。
宇宙関係は生活から離れたイメージになりやすく(だから憧れがあるともいえるが)、具体性に乏しくなりやすい。大きな目標への段階を設定し、わかりやすいマイルストーンをおいて理解を得ていくことが必要だと感じた。
ところで、本書はそうした観点を抜きにしても非常に興味深い本だ。自分自身、これまでこうした慈善活動には積極的な興味を持てないでいたのだが、必要なアクションとその成果がこれだけ明確に示されると「自分も子供たちの未来をすばらしいものに変えられるかもしれない」と思えてくる。自分の中で問題が現実味を帯びてくるのがわかった。昨年のリーマンショックで出した損が悔やまれる・・・。
以下は2008年5月現在のルーム・トゥ・リードの成果。
設立は2000年というから大変な数だ。。
- 学校442校の開設
- 図書館5,167カ所の開設
- 現地語の児童書を226タイトル、計209万9,000冊発行
- 計224万976冊の英語の児童書を寄贈
- 108のコンピュータ室を開設
- 47の語学学習室を開設
- 4,036人に女子奨学金を支給
「慈善活動」という言葉にいい知れぬモヤモヤを感じているビジネスマンはぜひ本書を読んでみてほしい。慈善活動のイメージがすっきりと変わるはずだ。
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