【このエントリーはCNET読者ブログ(2010年6月閉鎖)に掲載していたものです】
青山スパイラルホールで行われた『劇的3時間SHOW』という10日間くらいに渡るイベントの中で、メディアアーティストの岩井俊雄さんの回があるということで行ってきました。
で、その後半は6年の歳月をかけてとうとうこの9月にイギリスでテスト販売が開始されたという「TENORI-ON」というガジェットの紹介だったのですが、これが思いがけず、いい。
ちなみにこんなやつです。
岩井さんがこの楽器を製作した理由のひとつとして、現代ならではの楽器を作りたかったという点をあげています。たとえば、これまでの楽器はその演奏スタイルも含めてどれも非常に個性的です。ピアノやギター、バイオリンは演奏するポーズだけで、それとわかります。でも、1900年代以降、(テルミンを除いては)本当の意味での新しい楽器は出てきていないと岩井さんは指摘しています。確かにシンセサイザーなどは基本的にピアノの鍵盤というインタフェースを踏襲しています。
こうした中、「TENORI-ON」は、演奏スタイルも含めた新たな「楽器」として位置づけられました。
それは「TENORI-ON」の完成度を見てもわかります。曲を「レイヤー」「ブロック」として扱うことで即興演奏だけでなく曲を構成することを可能にしたり、MIDIやSDカードといったインタフェースを装備することで他デバイスとの連携やデータ保存にも考慮しています。インタフェースの奇抜さに頼らず、楽器としての作りこみがきちんとされている印象を受けました。
ところで、SDカードには演奏データも記録できるのですが、これは完成した曲データばかりではなく、その制作・演奏過程もすべて記録できるそうです。つまり、タイミングがずれてしまったり、操作を誤ってしまった様子も記録されてしまうのですが、そうしたデータを再生したとき、岩井さんは「人の気配」を感じたといいます。
これはセカンドライフのようなVirtual World業界でよく耳にする「テレプレゼンス」という概念によく似ています。Virtual Worldがアバターを通して世界の存在感を伝えるのと同じ様に、「TENORI-ON」はその演奏を通して(音だけでなく)演奏者の存在感をも伝えているのかもしれません。データの形であればネットで簡単にやり取りができます。そう考えると、「TENORI-ON」は楽器という側面を持ったコミュニケーションメディアであるともいえそうです。
参考:
TENORI-ON開発日誌「劇的3時間SHOW」
TENORI-ON(テノリオン) 情報サイト♪「TENORIST(テノリスト) 」
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